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更新日: 2012年12月11日

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私が介護福祉士を目指しはじめたのは、たしか小学校3年生くらい。
私自身は覚えてないけど、当時の担任から母が聞いたらしい。
なにが介護福祉士を目指すキッカケになったのかも覚えてない。
いや、覚えてないよりは『解らない』と言った方が正しいのかもしれない。
誰かに憧れたわけでもないし、施設を利用している高齢者に同情したわけでもなかったから。

そんな不確かでモヤモヤしてる理由だけど、この歳まで一切ブレることはなかった。
学校でイジメられて傷ついても、介護の辛い現実を知っても、諦める理由にはならなかった。
ただ、がむしゃらに《介護・社会福祉・医学・心理学》等の勉強をした。本を読んだ。
当時の知識は、いまでも役に立ってる(たとえば行動心理とか病気のこととか)。

そんなこんなで中学生になって、近所の老人ホームへの慰問に参加した。
なんてことはない。風船バレーをしたりお話ししたりするだけ。
その老人ホームは、すごくあたたかかった。優しい空間だった。だけど職員さんは慌ただしかった。
勉強しているとはいえ、何もお手伝い出来なくて、歯がゆさを感じていた私に、おばあちゃん(利用者様)が言ってくれた。

『○○ちゃん、今日は来てくれてありがとうね。とても楽しかったよ。ここはいつも同じことの繰り返しだから、つまらないの。だから、行事予定をみて、○○ちゃんたちが来てくれる日があると、とても楽しみなんだよ。本当にありがとう。また来てちょうだいね。お孫ちゃん』

とても嬉しかった。束の間のふれあいだったのに、涙を流して喜んでくれた。
そのとき、私のなかにあった『どうして介護福祉士になりたいのか』というモヤモヤしていたものが無くなった。
その答えは至極シンプルなものだった。

《利用者様の家族になりたい》

ただ、それだけ。
血のつながった家族になれないのは解ってる。
でも、頑張れば『心でつながる家族』にはなれる。
施設という大きな家に住む、心でつながった家族。
それが私の目指すものであり、介護施設のあるべき姿なんじゃないかと思う。

福祉科のある高校に進学して、無事に介護福祉士の国家資格と訪問介護員1級の資格を得た私が、就職先に選んだのは中学生のときに慰問にいった老人ホームを運営している法人。それが今の職場(配属先は違う施設だったけれど)。

入社してから、「もっと動け」だの「敬語を使え」だの…たくさん怒られた。
悪口・陰口・無視・泥棒の濡れ衣とか、いろいろされた。
そのうえ、親まで侮辱された。
正直、とてつもなく腹が立った。
だけど、頑張って抑えて、耐えてきた。
利用者様が支えてくれた。

私が敬語を使わないのは、敬語を使うこと自体に違和感があるから。
べつに、利用者様や先輩方を敬っていないわけじゃない。
相手を敬っているかどうかは、言葉でなくとも『行動で充分に伝わる』ものだと思う。
むしろ、心のこもっていない敬語を使われる方が、なんだか腹立たしいし、悲しい。
だから、私は敬語を使わない。
使ったとしても「です・ます調」の簡単なものしか使わない。

だいたい、家族に敬語なんて必要ない。

こういうことを言うと「利用者さんは家族じゃない」と言う人もいると思うけど。
…現に先輩がエリア会議で言ってた「家族じゃないんやから」って。
私は、そう言った先輩は悲しい人だなって思った。

老人ホームは、高齢者にとっての『終の住処』。
人生の最後を迎える大切な家。
だからこそ、穏やかで、優しくて、あたたかくて、家庭的な雰囲気が必要だと思う。
意識して創られた雰囲気じゃなくて、ひとり一人から自然と溢れ出る、やわらかい雰囲気。
そんな雰囲気を醸し出すために必要なのが、『利用者様と家族になること』なんだと思う。
「生命の灯火が消える」そのときも、重苦しくて悲しい雰囲気じゃなくて、あたたかくて優しい雰囲気のほうが、利用者様も嬉しいんじゃないのかなって思う。

ここでちょっと実際にあった話を。
体調を崩して病院に入院していた寝たきりの利用者様が、無事に退院して、私の担当する居室へ帰ってきた。
話しかけても反応なし。いつも寝てる。
しばらく、そんな状態が続いた。
ある日、その利用者様のケアカンファレンスがあって、居室担当の私も参加した。
そこで、その利用者様の家族さんから言われた。

『退院してしばらくは、逢いにきて声をかけても寝てるばかりだったんですけど、最近は逢いにきて声をかけると…笑って返事をしてくれるようになったんです。あと、気のせいかもしれないけど、帰り際に「おばあちゃん、また来るね」っていうと、笑って「またね」って言ってくれてるような気がするんです。こんなにも元気になってくれて…本当に嬉しいです。ありがとうございます。』

家族さんの言葉を聞いとき、私は飛び上がりたいくらいに嬉しかった。
私の頑張り(私だけではないと思うけど)が報われたこと、利用者様が家族さんのことを認識してくれたこと、家族さんが喜んでくれたこと、家族さんが利用者様を大切に思っていてくれること…。
いろいろなことを感じられて、本当に嬉しかった。

その利用者様が退院してから、私が出勤日に欠かさずにやったこと。
それは『声かけ』。

「◎◎さん、おはよう!今日はいい天気だよ~♪」
「◎◎さん、◎◎さん!昨日ね、こんなことがあったの!」
「◎◎さん、今日はお風呂の日だよー!サッパリしてこよっか!」

…みたいなことを一人で喋ってた。始めは。

だけど、あるときから「ん」とか「そう」っていう声が利用者様から聞こえてくるようになった。
そこに居たのは、笑顔の利用者様。
ちゃんと私の声は届いていた。
私がおはようと言えば、笑顔で「おはよう」と言ってくれて、こんなことがあったのと話すと「うん」とか「そうなん」って相槌をうってくれるようになった。
それは、だんだんと他の職員にもされるようになった。
その頃には、私の顔をみるだけで、笑顔になってくれるようになった。

とても嬉しかったし、その利用者様の家族になれたのかなって思った。