更新日: 2015年11月27日
「笑ってろ」
私が泣きながら、当時の彼のことを相談したときに。決まって奴はそういった。
「泣くな。お前はいつも笑ってろ。そしたらきっといいことがあるから」
奴は彼ではない。
ネットで知り年上の男の人。
趣味で盛り上がり意気投合するまでには時間はかからなかった。
そしていつのまにか、付き合ってる人よりもお互いが大切な存在になっていた。
ある場所の、大きな桜の木下で、ある春の日に会う約束をした。
でも奴は入院してしまい、約束の場所には現れなかった。
「ごめん。病院の天井を見てもお前のことしか浮かばないんだ。お前に泣くなと言ってきたのに、俺が泣かしてしまった。ホントごめん」
奴はずっと謝っていた。
でも、奴が無事なら私はそれだけでよかった。
その後、私が付き合っていた人と別れたとき「お前の心は大丈夫なのか?」と、いつもの奴からは想像できないようなことを言われた。
今まで誰からもそんな言葉をかけられたことはなくて、電話で泣きじゃくった。一通り泣いた私に奴はやっぱり言った。
「お前は笑ってろ。ずっと。そのほうがいい」 奴とは会うことはなかった。
奴は海外赴任が決まり旅立っていった。
それは嘘か本当かわからないけれど、私を傷つけることなくいなくなった。
あれから13年。私の心の奥では、奴との時間が大切にとってある。
そして、泣いたときには思い出す。 「笑ってろ。そしたらきっと、いいことがあるから」
残念ながら、奴に出会えたことよりいいことなんて未だにに訪れてはくれないけれど。
いつか奴に会えたなら、あの日の約束の続きから始めよう。
そして言うんだ。
「笑ってたらいいことあったよ。こうやってようやく会えたじゃん」と。